大判例

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東京高等裁判所 昭和43年(行ケ)172号 判決 1970年2月25日

原告

村田機械株式会社

代理人

大野柳之輔

大野克躬

被告

特許庁長官

代理人

渋江光友

外一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実《省略》

理由

1、<前略> 実用新案法第四一条が同法の審判に準用する特許法第一五九条第一項の規定が、同法第五四条の規定を同法第一二一条第一項の審判に準用しているところからすれば、右争いのない事実にみられる本件の手続におけるように、実用新案登録願の拒絶査定に対する審判において、出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達後になされた明細書および図面の補正につき、該当法条に違反するものとして、これを却下する決定がなされ、そしてこれにより補正がないものとして拒絶の審決がなされたという場合には、審判請求人は、右審決に対する取消し請求の訴訟において、右決定における違法を主張してこれを争い、よつてこの決定にもとづいてなされた審決の違法を主張しうるものと解するのが相当である。そして本件における右の補正が、「登録請求の範囲の減縮」を目的とするものであることは、補正の前後における「登録請求の範囲」を比較すれば明らかであるから、この考慮のもとに以下原告が請求原因四で主張する補正却下決定が違法であるとする事由について判断する。

2、請求原因四、い、の点について

本件考案における前記a'の構成(すなわち、「抽斗箱の底板に縦横任意の方向に適宜列数の小孔を多数穿設する。」)が、……第一引例の「抽斗基板には互いに直角な列をなし一定間隔を保つ孔を設ける。」という構成と一致することは明らかである。そして、本件考案の小孔も第一引例の孔も、各孔の列の両端部のもののみならず中間部のものも、隔壁を抽斗底板にねじ止めする目的をもつことは、後記4、(1)のとおりであるから、前記a'の構成について、引例との間に目的の相違があることを根拠として、本件考案と引例との差異をいう原告のこの点の主張は、採用できない。

3、請求原因四、ろ、の点について

(1)  その(1)について

第二引例が、引出の内部両側のみに多数の縦溝を設けたものであり、したがつて、その縦溝に仕切板を挿入することにより、引出を前後の方向に分割することができるにすぎないことは、……明らかであり、したがつて、本件考案において、抽斗内壁四囲および中間仕切板の両側にも(仕切板支持板を介して)多数の縦溝を設け、これにより補助仕切板の使用とあいまつて抽斗内部を碁盤目に仕切ることができるのと、構成および作用効果のうえに差異があることは原告主張のとおりである。

しかしながら、箱体の内壁四囲に多数の縦溝を設け、この縦溝に嵌合させるべき仕切板の両側にも同ピッチの縦溝を対応して設け、大小数箇の仕切板を縦横方向に適宜組み合わせて互いに嵌合させ、箱体内部を所望の大きさ・区画に仕切るようなことは、本件出願前から印箱などに用いられる慣用の手段であることは周知に属する。そして、前記のとおり引出(箱)内部両側に設けられた縦溝と仕切板との嵌合により、引出(箱)内部を前後に区分する第二引例が公知である場合に、これに右の慣用手段を適用して本件考案の前記構成のようにすることは、当業者がきわめて容易になしうるところである。

(2)  その(2)について

……第二引例の縦溝は、「引出の内部両側」に設けた隆起条に列設されるものとされており、そして同添付図面に示す右隆起条は引出の側壁じたいの彎曲により構成されていることを認めることができるが、同引例の「実用新案の性質、作用及効果の要領」の項にも「登録請求の範囲」の項にも、単に引出の内部両側に適当数の隆起条を設ける旨の記載があるにとどまり、この隆起条が引出じたいの内部構成部分すなわち側壁じたいの内部両側部分に形成せられるべきことを限定する趣旨の記載も示唆も見当たらないのであつて、この引例の記載全体からすれば、その隆起条は、必ずしも原告主張のように引出の側壁じたいに設けられているものと解することはできない。したがつて、隆起条(仕切板支持板)が引出側壁じたいであるか別体であるかの相違があることを前提として、本件考案と第二引例との差異をいう原告の主張は失当である。のみならず、仕切板支持板を中間仕切板と別体に設けたことによる原告主張の作用効果については、本件の明細書になんら記載がないから、これを根拠とする原告の主張も採用できず(なお仮に原告主張の作用効果があるものとしても、本件考案にかかる装置じたいの性質、その用途にかんがみれば、この作用効果のもたらす利点が必ずしも重要な意味をもつものとは考えられない。)、したがつて仮に原告のいう両者の構成上の差異点があるとしても、それは結局単なる設計上の微差というに帰着する。

(3)  その(3)について

前記のとおり第二引例は、単に仕切板両端を引出内壁の縦溝に嵌入して引出内を仕切るものであるから、縦溝のピッチを小孔のピッチと等しくする構想がないことは当然である。一方、第一引例は、つぎの4、(1)で説示するごとく、隔壁をねじにより抽斗基板の孔に(両端部の孔のみでなく中間部の孔においても)締めつけ固定するものであるから、孔のピッチを縦溝のピッチと等しくする構想をもたないのは、当然である。

そして、本件考案は、第二引例の縦溝嵌入の機構と、第一引例のねじ止めの機構とを併用して、仕切板を抽斗内に強固に固定するものというべきであるから、仕切板を固定するための縦溝とねじ孔との各穿設ピッチを等しくすべきことは、右の併用にあたり何人も思いつく当然の手段にすぎないことで、そのことじたいになんらかの考案力を必要とするかのごとき原告の主張は採用できない。

4、請求原因四、は、の点について

(1)  その(1)について

……第一引例には、「抽斗基板1には互いに直角な列をなし一定間隔を保つ孔2を設ける。……断面状の隔壁3を中板を通じてねじ4により抽斗基板1の孔2に締め付け固定する。そしてこの隔壁は抽斗内部を仕切る部材を構成する。」との記載があり、ねじによる締めつけ箇所については隔壁のいずれの部分であるかにつき格別の限定がないこと、添付第一図には、抽斗基板に二箇の隔壁3および3がそれぞれねじ4・4および4により孔に締め付け固定された外観平面図が一部切欠して、また、第六図にはその横断面図が示されているが、その第一図中一箇の隔壁3(同図の中央よりやや上部に示されているもの)は、両端部のねじ4・4で固定されていて、その中間部には数箇の記号用駒が隔壁の上面に散在しており、また、他の隔壁3(同図の下端に一部切欠して示されているもの)は、そのほぼ中央部においてねじ4で固定されていること、そして、この後者のねじ4に対応する前者の隔壁の該当位置には、記号用駒が存在すること、がそれぞれ認められる。これらの記載によつてみれば、第一引例の各隔壁3および3は、いずれもその両端部のほか、中間部においてもねじにより抽斗基板に固定されているものとみるのがむしろ相当であつて、原告主張のように、第一図中の右前者の一箇の隔壁の外観図のみを根拠に、ねじ止めは両端のみであると断定するのは早計である。

したがつて、本件考案における、中間仕切板と抽斗底板とを小孔に通したねじで締めつける構成と、第一引例の、前記隔壁をねじにより抽斗基板の孔に締めつける構成との間に格別の差異は認められず、したがつてそこから得られる作用効果をも同じくするものというべきである。

このような構成を採用する目的につき、本願は抽斗箱の底板の「補強」を明示しているのに対し、引例にはとくにかかる意図が明示されていないにしても、そのことは両者の考案としての同一性を否定するものではない。

(2)  その(2)について

第一引例の隔壁に原告主張のような抽斗側壁との嵌合という構成およびそれによる作用効果がないとしても、かかる構成、作用効果が第二引例に存することは明らかであるから、この点の原告主張は失当である。

5、請求原因四、に、の点について

板と板とを直角に接合するために、一方の板の下端部を直角に折り曲げて他方の板に接する面を構成するようなことは、本出願前からきわめて周知慣用の手段に属するところであり、そしてまた、本件考案において中間仕切板にこの手段を適用したことに―この手段の本来的な効果である接合上の利益のほかに―、仕切板の構成として、原告主張のような格別の利点をもたらす効果のあることについては明細書になんら記載されていないのであるから、本件考案の中間仕切板に、第一引例の断面H状の隔壁との主張のような構成上の差異があつても、それは単なる構造上の微差であるにすぎず、そこに考案力の存在を認めることはできない。

6、以上2ないし5において説示したところを要約して、本件考案と第一、第二各引例とを対比するに、本件考案は、これら各引例に示された各隔壁固定機構に、前記箱体を縦横に区画するための慣用技術その他の慣用方法をとり入れて、抽斗箱内部を強固に大小様々に仕切ることができるようにしたものということができ、その結合に新規なものを認めうるとしても、そこに期待しうる作用効果は、各公知、慣用の技術がもつものの総和の域を出ないというべきであり、結局、右各引例にもとづいて当業者がきわめて容易に考案しうる程度のものというほかはない。

7、そうすると、本件補正後の本件実用新案について登録要件を否定し、その補正を許さなかつた補正却下の決定は正当であり、したがつて、補正がないものとして本件実用新案の要旨を認定した審決の判断には原告主張のような違法がないから、その取消しを求める原告の請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。(古原勇雄 杉山克彦 武居二郎)

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